【CDレビュー】”Passion & Warfare” by Steve Vai

<突出しのトピック3点盛>

・ギターが喋る!?ギタリストでなくとも必聴、世紀の問題作

・意外と知らないヴァイの経歴

・ギター革命と日本メーカーの貢献

「スティーブ・ヴァイ」という名前は、エレキギターを数年やった人ならどこかで見聞きしたことはあるだろう。自分の場合は、中学生の時に店頭でもらったIbanez(というギターブランド)のカタログだった。名だたる有名ギタリストの中でも、一際タダモノではないオーラを醸し出していたことを記憶している。

今では当たり前となった7弦ギター(通常は6弦)を浸透させる先駆けとなった他、様々な奏法やエフェクトを駆使して表現の幅を大きく広げた点など、「ヴァイ」のこのアルバムはJimi HendrixやVan Halenに並ぶインパクトをギター界に残したといっても過言ではない。

さて、アルバムの内容は全編インストかつ目まぐるしいヴァイワールドが展開される雑多な楽曲群で構成されており、一聴しただけではとっつきにくさを感じるかも知れないが、まずはTr. 8の”The Audience is Listening” が特筆される楽曲と思われる。(もちろん佳曲揃いなので冒頭から順に聴くことをオススメするが。)

まず、この楽曲は寸劇になっていることが特徴的だ。少年時代のヴァイがクラスでギター演奏を発表するにあたり、先生がクラスに入ってきてガヤガヤしている生徒たちに「ハイ注目!」「皆さん、お静かに!」といっているあたりからアメリカの小学校(Elementary School)の生意気盛りの悪ガキ共がいる教室を思い浮かべながら聴いてほしい。しかもこの先生役だが、本当にヴァイ自身が教わっていた先生で、Nancy Fagenという名前でアルバムにもクレジットされているから驚きである。(流石に胴に入った演技である、というか本物である。)

内容は、先生としては大人しいカントリーの演奏でもしてくれるつもりだったのが、ヴァイ少年「ロックをやります」(ドラムがスタート)→ナンシー先生「ちょっと音が大きすぎなんだけど!?」「アンタたち、音がデカくなりすぎよ!!!」「教壇から下りなさい!」「やめて〜泣」と怒涛の演奏が繰り広げられ、クラスメイトは大盛り上がり、泣きを入れても演奏が収まらないのに諦めた先生は終盤やけくそなコメントを連発、最後はヴァイ少年「(本当は)とってもシャイなんだけどね」とのコメントでオチがつくというものだ。ギタープレイ的にはイントロで「有名なロックギタープレイを交えて」と少年ヴァイが曲紹介するとおり、ほとんどのメジャーな奏法を盛り込んだまさに「全部のせ」の演奏を聴くことができるが、やはり教室に入る前の会話をギターで表現しているのが凄すぎる。70年代からとっくに「トーキングモジュレーター」という装置があり、ジェフ・ベックやピーター・フランプトンが喋るギターで有名だったが、ほとんどナチュラルな音色で、両手のコントロールと音程だけで先生との会話を成立させている(!?)あたりはまさに当代きっての演奏力と言える。

さてそのヴァイの経歴だが、ソロ以前はDavid Lee Roth、White Snakeあたりをご存知の方は多いだろうが、元々はFrank Zappaの採譜係(兼ギタリスト)が最初期の重要キャリアであることはあまり知られていない。(そもそも日本ではZappa自体がそこまで人気がないのでしょうがないが。)

「奇才」といえば、これこそまさにZappa本人の代名詞的表現であり、ヴァイのソロ1作目 “Flex-Able”などは完全にZappa時代の延長にあるように思える。ここではZappaについて細かく触れるスペースがないが、全般的にに複雑極まるZappaの作品を採譜することで、ヴァイ本人の楽曲制作の土台が出来上がったことは間違い無いだろう。

最後にヴァイと日本との関係であるが、これは星野楽器のギターブランドである「Ibanez(アイバニーズ)」を抜きにしては考えられない。先述の7弦ギターをはじめ、HR/HMの後進が次々とIbanezを使うようになったのは疑いなくヴァイの活躍に感化されたことが大きいだろうし、Gibison/Fenderという米国の2大巨人に次ぐmade in Japanの高品質なギターブランドとして、世界中に認知されている。(実際、JEMから発展したRGシリーズは、Fenderストラトに次ぐ売上本数だそうだ。)

本記事執筆にあたって、JEMという名称由来を検索したが有力なソースが発見できなかったが、後継として登場したPIAは”Paradise in Art”の略である。ヴァイは「奇才」や「ギターの魔術師」であると同時に、音楽の芸術的庭園の管理人である。良い子のみんなは教壇に登ってギターを弾かないようにね。(了)